物性基礎工学研究グループ (田仲・川口研)
 

軌道の自由度と空間反転対称性の破れを有する超伝導体における異軌道電子対によるトポロジカル超伝導の理論


超伝導とは転移温度以下で電気抵抗が消失する現象であり、1911年に発見された。 超伝導状態は量子力学において微視的な理論であるBCS理論で当時はよく説明された。 このBCS理論では、電子がCooper対と呼ばれる電子対を形成し、準粒子のエネルギースペクトルに超伝導ギャップが 開くことで生じることが示された。以後、超伝導体において実現するCooper対の持つ対称性(超伝導ペア対称性、超伝導ギャップ関数) を知ることは中心的課題のひとつとなった。しかし、発見される超伝導体は単体金属を中心とし、 実現する超伝導ペア対称性はBCS理論で説明することが可能であった。

 
図1:(a)(c)自明な超伝導と(b)(d)トポロジカル超伝導のイメージ。 (a)(b)バルクにおけるFermi面上でのギャップ構造のイメージ。 黒線はFermi面であり、赤点及び青点はそれぞれトポロジカル数+1及び-1を持つノードである。 (c)(d)バルクのエネルギースペクトル(青色)と表面状態(赤線)のイメージ。 (a)ではバルクにおいてトポロジカル数が0であるため、(c)で示すように表面状態が現れない。 一方で、(c)ではトポロジカル数が0でないため、 その結果(d)のようにバルクのエネルギースペクトル間を結ぶようなゼロエネルギー表面状態が現れる。


ところが、1986年にBCS理論では説明できない発現機構で超伝導ペア対称性が実現する、 非金属物質に電子やホールをドープした系である銅酸化物高温超伝導体が発見された。 これ以降、酸化物のような非金属物質に対しても超伝導の研究が盛んに行われるようになった。 その非金属物質を母体とした超伝導となる物質の中に、LaAlO3/SrTiO3[1,2]のような酸化物界面系やMoS2[3] のような層状ダイカルコゲナイドのような低次元物質がある。 特に前者の物質は、異なる酸化物同士のヘテロ構造を持つが、超伝導となるのはヘテロ接合界面に現れる 2次元電子ガスである。この2次元電子ガスは、酸化物の遷移金属由来の軌道の自由度を持つだけでなく、 強いスピン軌道相互作用、空間反転対称性の破れを持つ。この軌道の自由度とスピン軌道相互作用は、 図1(b)(d)で示すようなトポロジカル超伝導(バルクでは波動関数がゼロでないトポロジカル数を持ち、端に局在した状態が存在する超伝導状態) を生み出すことが可能である[4,5,6,7,8]。酸化物界面系では最近、LaAlO3/SrTiO3における接合系での微分コンダクタンスの実験[9]や 二つのLaAlO3/SrTiO3によるJosephson接合の実験[10]において、異方的超伝導またはトポロジカル超伝導の可能性が示唆された。 しかしながら、LaAlO3/SrTiO3 を含む酸化物界面系において実現する超伝導ペア対称性や軌道の自由度が 超伝導状態に与える効果は現在でも重要な問題となっている。 そのため、軌道の自由度の視点から酸化物界面系における超伝導状態やその現象を調べることは、 軌道の自由度を有する低次元超伝導体において実現する超伝導ペア対称性を明らかにするうえで大きな意義を持っている。

そこで本研究では、酸化物界面系のような空間反転対称性の破れとスピン軌道相互作用のある多軌道系において、 異軌道間でCooper対を形成する際にトポロジカル超伝導が発現する可能性を調べた[11]。

転移温度近傍での超伝導ペアの安定性を調べることができる線形化Eliashberg方程式に平均場近似及び弱結合近似を施すことで、 多軌道ギャップ方程式を得る。この多軌道ギャップ方程式の解のうち、値最大の固有値に対応する固有状態が、 安定化する超伝導ペアである。多軌道ギャップ方程式を異軌道間引力相互作用のみを仮定して解いたことで、 図2(c)のような異軌道間電子対によるトポロジカル超伝導がエネルギー的に安定であることが判明した。 この超伝導ペア対称性は図2(d)(e)のような、バルクにおいて巻き付き数がゼロでない点ノードを持ち、表面状態はその点ノード由来のフラットバンドを持つ。 その結果、表面状態密度はゼロエネルギーにピークを持つ。このゼロエネルギーピークは超伝導ギャップの増大によって、 多軌道の効果で自明な超伝導へトポロジカル相転移する、極めて特異な現象が生じることが明らかになっている。


 
図2:(a)BCS理論で説明される、(b)異方的超伝導状態における波数空間内及び原子サイト上でのCooper対のイメージ。 Fermi-Dirac統計性により、(a)では異なる向きのスピンを持つ電子同士が同一原子サイト上でCooper対を形成できるが、 (c)では同じスピン同士を持つ電子がいるために異なる原子サイトでのみCooper対を形成できる。 (c)異軌道間トポロジカル超伝導における波数空間内及び原子サイト上でのCooper対のイメージ。 dxy軌道は結晶場によりエネルギーが下がる。異なる軌道で電子対を形成するために、同一原子サイト上でも同じスピンを持つ電子同士がCooper対を形成できる。 (d)異軌道間トポロジカル超伝導におけるバルクでの構造。巻きつき数+1(赤点)及び-1(青点)を持つノード構造が対角方向に現れる。 灰色の線はフェルミ面である。(e)[110]方向に表面を作った時のバルクのエネルギースペクトルと表面状態[11]。 ゼロエネルギーに巻きつき数を持つノード構造間をつなぐように、表面状態であるフラットバンドが現れる。


また、本研究で提案した異軌道間トポロジカル超伝導は、超伝導状態における非自明な2次元スピン構造や、 s波超伝導体とのJosephson接合でのJosephson電流に新奇な振る舞いが現れることも明らかになっている[12,13]。


このページは OBの深谷優梨氏が執筆したものです。



[1] A. Ohtomo and H. Y. Hwang, Nature (London) 427, 423 (2004).

[2] N. Reyren, et al., Science 317, 1196 (2007).

[3] J. T. Ye et al., Science 338, 1193 (2012).

[4] A. P. Schnyder, S. Ryu, A. Furusaki, and A. W. W. Ludwig, Phys. Rev. B 78, 195125 (2008).

[5] L. Fu and E. Berg, Phys. Rev. Lett. 105, 097001 (2010).

[6] K. Yada, et al., Phys. Rev. B 83, 064505 (2011).

[7] M. Sato, Y. Tanaka, K. Yada, and T. Yokoyama, Phys. Rev. B 83, 224511 (2011).

[8] P. M. R. Brydon, A. P. Schnyder, and C. Timm, Phys. Rev. B 84, 020501 (2011).

[9] L. Kuerten, et al., Phys. Rev. B 96, 014513 (2017).

[10] D. Stornaiuolo et al., Phys. Rev. B 95, 140502(R) (2017).

[11] Y. Fukaya, et al., Phys. Rev. B 97, 174522 (2018).

[12] Y. Fukaya, et al., Phys. Rev. B 100, 104524 (2019).

[13] Y. Fukaya, et al., Phys. Rev. B 102, 144512 (2020).



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