物性基礎工学研究グループ (田仲研)
 

ディラック半金属



 ディラック半金属は時間反転対称性と空間反転対称性が保存されているときに現れる。 このとき任意の波数$k$において2重縮退(クラマース縮退)が生じ、伝導バンドと価電バンドの接触点(ディラック点)で4重縮退が実現される。 接触点近傍では、低温においてギャップレスのディラックフェルミオンのように振る舞う。 ワイル半金属のページで解説したように、ディラック点はトポロジカルに保護されておらず、容易にギャップを開けることができる。 しかし近年、空間反転対称性と時間反転対称性に加えて結晶対称性が存在すると安定なディラック点が存在することが示された[1,2,3,4]。 ここでは最近発見されたディラック半金属を念頭に置き、離散回転対称性: $C_n$ (n=2,3,4,6)によってディラック点が安定化される場合を考える。 離散回転対称性により保護されるディラック点には大きく分けて2通りある。1つはブリルアンゾーン境界の時間反転対称点(TRIM)にディラック点が1つ存在する場合である。 このとき結晶は非共型対称性を持つ必要がある。このタイプの候補物質は$\beta$-cristobalite BiO$_2$($C_4$対称性)[2]や歪んだスピネル構造($C_2$対称性)[5]である。 他方、もう1つは対称軸上に2つのディラック点が現れる場合である。 このときディラック点はTRIMから離れたところにできる。 このタイプはBi$_3$Na($C_3$対称性)[6-8]やCd$_3$As$_2$($C_4$対称性)[9-16]の物質においてARPESやSTMによりディラック点が実験的に観測されている。 他にもA$_3$Bi(A=Na, K, and Rb)[2]やBaYBi(Y=Cu, Ag, and Au)[7]でディラック点が存在することが第一原理計算により示されている。 また、後者のタイプには回転軸に対して平行に表面を作るとワイル半金属と同様に2つのディラック点の間に表面状態が現れる。 Bi$_3$Naのように$C_3$により保護されている場合は回転軸に対して垂直な平面に$Z_2$トポロジカル数が存在し[4,18]、フェルミアークのペアが現れる[7,8,18]。 他方Cd$_3$As$_2$のように$C_4$で保護されている場合は回転軸に対して垂直な鏡映面に非自明なミラーチャーン数が存在し[4,19]、フェルミループが現れる[4,15,16,19]。 ここでフェルミループはフェルミアークと異なり、表面に射影したディラック点に繋がっていない。 後者のディラック半金属は非自明な表面状態を持つことからしばしば”トポロジカルディラック半金属”と呼ばれている。

 ディラック半金属はトポロジカル絶縁体や、トポロジカル超伝導体、ワイル半金属、アクシオン絶縁体など様々トポロジカル相へのトポロジカル相転移が可能な物質として期待されている[6]。 またグラフェンの3次元版としても注目を集めており、高い移動度や巨大な磁気抵抗が観測されている[13,14]。


参考文献

[1] S. M. Young, S. Zaheer, J. C. Y. Teo, C. L. Kane, E. J. Male, and A. M. Rappe, Phys. Rev. Lett. 108, 140405 (2012).
[2] Z. Wang, Y. Sun, X.-Q. Chen, C. Franchini, G. Xu, H. Weng, X. Dai, and Z. Fang, Phys. Rev. B, 85, 195320 (2012).
[3] Z. Wang, H. Weng, Q. Wu, X. Dai, and Z. Fang, Phys. Rev. B, 88, 125427 (2013).
[4]B.-J. Yang and N. Nagaosa, Nat. Commun. 5, 4898 (2014).
[5] J. A. Steinberg, S. M. Young, S. Zaheer, C. L. Kane, E. J. Male, and A. M. Rappe, Phys. Rev. Lett. 112, 036403 (2014).
[6] Z. K. Liu, et al., Science 343, 864 (2014).
[7]S. Y. Xu, et al., arXiv:1312.7824 (2013).
[8] S. Y. Xu, et al., Science 347, 294 (2015).
[9] M. Neupane, et al., Nat. Commun. 5, 3786 (2014).
[10]S. Borisenko, Q. Gibson, D. Evtushinsky, V. Zaboloot-nyy, B. Buchner, and R. J. Cava, Phys. Rev. Lett. 113, 027603 (2014).
[11] Z. K. Liu, et al., Nature Mater. 13, 677 (2014).
[12] S. Jeon, et al., Nature Mater. 13, 851 (2014).
[13] L. P. He, X. C. Hong, J. K. Dong, J. Pan, Z. Zhang, J. Zhang, and S. Y. Li, Phys. Rev. Lett. 113, 246402 (2014).
[14] T. Liang, Q. Gibson, M. N. Ali, M. Liu, R. J. Cava, and P. N. Ong, Nat. Mater. 14, 280 (2015).
[15] H. Yi, et al. Sci. Rep. 4, 6106 (2014).
[16] M. Neupane, et al., arXiv:1501.00697v1 (2015).
[17] Y. Du, B. Wan, D. Wang, L. Sheng, C.-G. Duan, and X. Wan, arXiv:1411.4394v3 (2014).
[18] E. V. Gorbar, V. A. Miransky, I. A. Shovkovy, and P. O. Sukhachov, Phys. Rev. B 91, 121101(R) (2015).
[19] S. Kobayashi and M. Sato, arXiv:1504.07408 (2015).


トップへ戻る


2013 Tanaka Lab.