物性基礎工学研究グループ (田仲研)
 

非可換統計とマヨラナフェルミオン


非可換統計

数学では、ある代数に従う要素の演算が順番を問わないとき、これらは可換であるという。 一方、交換法則が成り立たない場合は、非可換であるという。例えば、$n \times n$ 行列($n>1$)は一般的に非可換である。 非可換統計とは、ある種の粒子が従う統計性のことを指す。三次元空間では、粒子 の統計性は基本的にボーズとフェルミ統計に分かれ、それらの統計性に従う粒子はそれぞれボソ ンとフェルミオンと呼ばれる。二つの粒子を交換すると、ボソン系の波動関数は 変化しないが、フェルミオン系の場合はマイナスの符号が付けられる。

$\Psi_B(r_1,r_2)=\Psi_B(r_2,r_1)$,  $\Psi_F(r_1,r_2)=-\Psi_F(r_2,r_1)$

一方で、二次元空間における場合、波動関数が交換に使われる軌道に依存することがあり、空間の特徴によって、 波動関数に一般的な位相が付く。

$\Psi_A(r_1,r_2)=e^{i\theta}\Psi_A(r_2,r_1)$

このような粒子はエニオンといい、分数統計に従う。数学的に、エニオンのような粒子の交換を扱う際に群を定義する。 波動関数に付く位相因子はその群の表現であり、この場合には絶対値1の複素数となっている。 しかし、3つ以上の粒子があり、かつ縮退もあれば、この群の表現は数ではなく、 縮退している状態を入れ換えたり混ぜたりする行列になる。 このような群で表される粒子は、非可換エニオンと呼ばれ、 非可換統計に従う。また、このような議論はほとんどの場合、低次元で行われているが、 三次元では点粒子ではなくテクスチャーをもったものにすると類似な議論ができる。


マヨラナフェルミオン

マヨラナフェルミオンとは、1937年にE. Majoranaによって理論的に提案された、 粒子と反粒子が等しいフェルミオンである[1]。ディラック方程式の実数解として存在し、 この解で表される粒子と反粒子は電荷をもたなくなる。 数学的に実数であるので複素数で表現される通常のフェルミオンの半分としてみなすことができる。 マヨラナ氏は、このような実数解の存在を理論的に示したが、 このような性質をもつ粒子は未だ発見されていない。 現在のところニュートリノやダークマターがこのようなフェルミオンの候補物質としてあがっているが、 実験では確認されていない。 しかし、最近になって、我々の扱う凝縮系物理の分野でマヨラナフェルミオンが存在している可能性が指摘され、 大きな注目を集めている

超伝導体では、電子とホールは重ね合わせ状態で存在し、準粒子の数が一定でなくなる。 そのため、電荷はもはや良い量子数ではなく、あらゆる電荷をもつ準粒子が存在し得る。 特に、電子とホールが完全に重なり合えばゼロ電荷の準粒子も実現可能となる。 有効的なマヨラナ粒子を得るにはこの条件が必要となる。 しかしながら、通常の超伝導ギャップは、このような完全な重ね合わせを実現することはできず、 マヨラナフェルミオンの実現は期待できない。だが、トポロジカル超伝導の場合には違う。 トポロジカル超伝導は、非自明なギャップをもち、超伝導体の端でギャップが閉じる、 つまり、端ではゼロエネルギー状態ができる。この状態は無電荷の電子とホールの重ね合わせ状態であり、 マヨラナフェルミオンに相当する。トポロジカル超伝導が自然に存在するか否かは、 単純な問題ではないが、最近の実験でそのような状態を人工的に創造し、 マヨラナ準粒子だと思われるものがコンダクタンスのピークとして観測されている[2,3]。 まだ絶対的な証拠ではないが、凝縮系でマヨラナフェルミオンが存在することを大きく支える結果である。

凝縮系で実現するマヨラナ粒子に対する期待は特に大きい。 その理由は、非自明な実現のため低次元では非可換統計に従う準粒子であるからだ。 非可換エニオンなので、環境のノイズに対して強く、従来のディコヒーレンスがなく、 量子情報を非常に安定した形で保つことが可能と考えられている。 そのため、トポロジカル量子ビットとして将来の量子コンピュータに応用できる可能性がある。


参考文献

[1] E. Majorana. Teoria simmetrica dell’eletrone e del positrone. Nuovo Cimento, 14,171 (1937)
[2] V. Mourik, K. Zuo, S. M. Frolov, S. R. Plissard, E. P. A. M. Bakkers, and L. P. Kouwenhoven. Signatures of Majorana fermions in hybrid superconductor-semiconductor nanowire devices. Science, 336, 1003 (2012).
[3] S. Nadj-Perge, I. K. Drozdov, J. Li, H. Chen, S. Jeon, J. Seo, A. H. MacDonald, A. Bernevig, and A. Yazdani. Observation of Majorana fermions in ferromagnetic atomic chains on a superconductor. Science, 346, 602 (2014).


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2013 Tanaka Lab.