物性基礎工学研究グループ (田仲・川口研)
 

超伝導発現機構


超伝導とは、転移温度以下において電気抵抗が0になる現象であり、1911年にHeike Kamerlingh Onnesによって発見されました。 金属の常伝導相において仮想的に電気抵抗が0とした状態(完全伝導状態)とは異なり、マイスナー効果と呼ばれる完全反磁性を示すことが1933年に発見され、 常伝導状態とは異なる物質の新しい相であることが決定付けられています。 一方で、超伝導が発現する理由、及び超伝導状態における電子状態は、超伝導の発見以来長きに渡って不明でした。 しかし、1957年にBardeen, Cooper, Schriefferの3名によって発表された理論(BCS理論)によって、超伝導発現機構理論の基本が明らかになりました。 以下では、そのBCS理論について簡単に説明を行います。

まず、超伝導状態においては、電子二つが対を組んでいます。 この対をクーパー対と呼びます。電子はフェルミ粒子ですが、電子二つが対を組んだクーパー対はボソンとなるため、クーパー対が集団で凝縮することが出来ます(ボーズ凝縮)。 この凝縮状態が超伝導状態であると言えます。 では、どのようにすれば電子がクーパー対を形成することが出来るのでしょうか?電子が対を組むためには電子間に何らかの引力が働く必要があります。 電子同士は元々クーロン斥力が存在するので、そのままではクーパー対を形成することが出来ません。 超伝導状態においては、電子間のクーロン斥力を有効的に引力にする必要があります。BCS理論においては、この引力の形成機構としてフォノンを取り上げました。 負の電荷を持つ電子が、正の電荷を持つ原子核が並んだ結晶中を運動すると、結晶格子に歪みが起こります(フォノン)。 歪んだ部分においては他の部分に比べて正の電荷に偏っているので、別の電子がその偏った場所に有効的な引力を感じます。 つまり、電子間には、フォノンを媒介として有効的な引力が働いていることになります。 この有効的な引力によってクーパー対が形成され、それが凝縮することによって超伝導状態となるのです。


図:クーパー対形成の概要図

このように、BCS理論によって超伝導の基本的な発現機構が明らかにされました。 ところが、BCS機構の超伝導体とは明らかに性質の異なる超伝導体(非従来型超伝導体)が、1978年の重い電子系超伝導体の発見を契機として次々と見つけられました。 その代表例が1986年に発見された銅酸化物高温超伝導体です。 高温超伝導体においては、クーパー対を作る引力は電子-格子相互作用ではなく、電子の持つスピンが隣同士で反平行になろうとするスピン揺らぎであると言われています。 2008年に発見された鉄系超伝導体は銅酸化物に次ぐ高い転移温度を持った超伝導体ですが、スピン揺らぎの他に軌道揺らぎを媒介とした超伝導理論が提案されています。

その他、銅酸化物超伝導体と同じ結晶構造を持つSr2RuO4においては、クーパー対を形成する電子が互いに平行となるスピン三重項状態であることが実験的に観測されていまが、 その発現機構については様々な理論が提案されており、決着はついていません。 また、近年、トポロジカル絶縁体にキャリアドープしたCuxBi2Se3において超伝導が発見されました。 この物質はトポロジカル超伝導の候補物質として注目を浴びていますが、その発現機構については未だ明らかになっておりません。 当研究室においては、このような超伝導がクーパー対を作る仕組み=超伝導発現機構について研究を行っております。


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