物性基礎工学研究グループ (田仲研)
 

奇周波数超伝導


超伝導状態を担うクーパー対は2電子から構成されることが広く知られています。 クーパー対の対称性に関して、多くの教科書には次のようにかかれています。 フェルミ・ディラック統計に従う2電子の対関数(ペア振幅)が、 それを構成する2電子の同時刻での入れ替えに関して反対称でなくてはなりません。 なぜなら、フェルミ・ディラック統計と整合しないといけないからです。 クーパー対の対称性は、スピン1重項偶パリティ(例えばs波やd波)とスピン3重項奇パリティ(p波 など)に分類されます。 この分類では、同一時刻で形成されるクーパー対(2電子の相関)に関して着目していることになります。 しかし、対関数を2電子の相対時間に関してフーリエ変換し周波数表示にしたとき、 対関数が周波数依存性を持つことも原理的には可能です。 そのような場合は、スピン3重項偶パリティ、スピン1重項奇パリティと分類されます。 まとめると対関数が周波数の偶関数になっているならば、 クーパー対の対称性は従来通りスピン1重項偶パリティとスピン3重項奇パリティに分類され、 対関数が周波数の奇関数となるとスピン3重項偶パリティ、スピン1重項奇パリティと分類されます。 そして可能なクーパー対の分類は次の表のようになります。

               
周波数(時間)スピン軌道全体超伝導状態
ESE+(偶)ー(一重項)+(偶)ー(奇)金属超伝導, 銅酸化物
ETO+(偶)+(三重項)ー(奇)ー(奇)ヘリウム3, Sr2RuO4
OTEー(奇)+(三重項)+(偶)ー(奇)バルクでは未確認
OSOー(奇)ー(一重項)ー(奇)ー(奇)バルクでは未確認
クーパー対の分類


ESE,ETO,OTE,OSOは、それぞれ、偶周波数スピン1重項偶パリティ、偶周波数スピン3重項奇パリティ、 奇周波数スピン3重項偶パリティ、奇周波数スピン1重項奇パリティを表しています。 奇周波数クーパー対(OTEのs波)は1974年にBerezinskiiによって提案されました。 バルクの超伝導状態でこのような対の実現を考えるのは難しく、まだ奇周波数バルク超伝導体は発見されていません[1]。

しかし、対称性の破れにより、主要なクーパー対は従来の偶周波数のペアであっても奇周波数のペアがSubdominantなペアとして混ざることは可能です。 並進対称性の破れにより、不均一な超伝導体においては、奇周波数クーパー対が偶周波数クーパー対に混在して普遍的に存在することが明らかになりました[2-3]。

               
バルクの対称性アンドレーエフ束縛状態界面での対称性
ESE(s, dx2-y2-wave)NoESE+(OSO)
ESE(dxy-wave)YesOSO+(ESE)
ETO(px-wave)YesOTE+(ETO)
ETO(py-wave)NoETO+(OTE)
バルクの対称性と界面の対称性


バルクの対称性と界面(表面)での対称性は上の表のようにまとまります。 またミッドギャップ・アンドレーエフ束縛状態の実体は、奇周波数クーパー対そのものです[2-3]。 d波超伝導体表面のミッドギャップ・アンドレーエフ束縛状態は奇周波数p波であるのに対してp波超伝導体表面のそれは奇周波数s波になります。 そのために、スピン3重項p波超伝導体・常伝導金属接合においては、界面に形成された奇周波数s波が常伝導領域(不純物散乱が顕著な拡散伝導領域)に浸入する異常な近接効果が起こります[4]。 この異常な近接効果は準粒子状態密度ρが零エネルギーでピークをもつ極めて特異なもので(下図)、従来から知られている準粒子状態密度が零エネルギーでギャップを持つ近接効果とは全く異なります[5]。 奇周波数ペアが存在すると異常な電磁応答現象が期待され[6-8]、この観点から広く研究されています[9]。



参考文献

[1]V. L. Berezinskii: JETP Lett. 20 (1974) 287.
[2]Y. Tanaka, A. A. Golubov, S. Kashiwaya, and M. Ueda: Phys. Rev. Lett. 99 (2007) 037005.
[3]Y. Tanaka, Y. Tanuma, and A. A. Golubov: Phys. Rev. B 76 (2007) 054522.
[4]Y. Tanaka and A. A. Golubov: Phys. Rev. Lett. 98 (2007) 037003.
[5]Y. Tanaka and S. Kashiwaya: Phys. Rev. B 70 (2004) 012507.
[6]Y. Asano, A. A. Golubov, Y. V. Fominov, and Y. Tanaka: Phys. Rev. Lett. 107 (2011) 087001.
[7]T. Yokoyama, Y. Tanaka, and N. Nagaosa: Phys. Rev. Lett. 106 (2011) 246601.
[8]Y. Tanaka, Y. Asano, A. Golubov, and S. Kashiwaya: Phys. Rev. B 72 (2005) 140503(R).
[9]Y. Tanaka, M. Sato and N. Nagaosa, J. Phys. Soc. Jpn., 81, 011013 (2012).


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2013 Tanaka Lab.