現在今後の研究テーマ

(1)超伝導接合の物理

 新規超伝導体は続々と発見されている。そのたびに、超伝導の対称性、エネルギーギャップを決定することは非常に重要である。最近ではSr2RuO4のトンネル効果の実験が行われて、アンドレーエフ束縛状態の存在を示すゼロバイアスコンダクタンスピークも測定されている。多バンド系、強相関電子系で適応できるトンネル分光の理論確立を目指している。特に鉄ヒ素系超伝導体のトンネル効果においては、多バンド効果が重要となる。準粒子トンネル効果、ジョセフソン効果さらには近接効果の理論の発展を目指している。当面はSr2RuO4、鉄ヒ素系超伝導体、 銅酸化物、反転対称性の破れた超伝導体を対象にする。また強磁性体接合の問題は、現在非常に重要になっている。界面でのスピン散乱効果、スピンに依存した界面での位相シフトの効果などを考慮して現実的な理論構築を目指したい。 最終的にはできるだけ扱いやすい簡単なパラメータ理論を作ることが重要であると考えているが、その一方で数値的Green関数を用いる方法の拡充も行いたい。

(2)超伝導発現機構の理論

 我々はこれまでに、様々な超伝導体の発現機構の研究を行ってきた。代表的なものとしては、鉄ヒ素系、2次元有機超伝導体、1次元有機超伝導体、コバルト酸化物、空間反転対称性の破れた系の超伝導である。スピン揺らぎ、電荷揺らぎ、さらにはモット転移近傍の磁気相互作用が強相関超伝導発現機構に重要な役割を果たしている。手法としては、RPA、FLEX、摂動論や変分モンテカルロ法である。新奇な物質の発見に対応して、予言ができる体制を整えることを目指している。

(3)超伝導における新奇な対称性

 我々は奇周波数電子対という概念が実は非常に重要であることを不均一系の研究から明らかにした。例えば、界面で形成されるアンドレーエフ束縛状態はすべて奇周波数電子対という概念で説明できる。奇周波数電子対に起因した新奇な量子効果を予言することを目指している。すでに、磁気応答、表面インピーダンスの異常など電磁的性質にに重大な異常が現れることが明らかになりつつある。超伝導の電磁気と対称性に立脚した研究を目指したい。
 一方で、強相関電子系で奇周波数電子対のギャップ関数形成が可能であることが理論計算から示されてきた。
ハバードモデルをはじめとする量子多体系における奇周波数ギャップ関数実現可能性を微視的理論から検討したい。
(4)トポロジカル絶縁体の物理

 トポロジカル絶縁体は最近急速に発展している分野である。HgTeヘテロ格子のエッジ状態で実現される2次元トポロジカル絶縁体である量子スピンホール状態とBi化合物などで実現される3次元系の両方がある。量子スピンホール効果では、ヘリカルエッジ状態間の相互作用によるInter-edge correlated liquids、あるいは巨大スピン角回転などを予言してきた。また3次元系では、異常磁気抵抗効果の存在を予言した。トポロジカル絶縁体のエッジ状態はスピンと電子の運動量の結合した自由度が半分になった系であり、様々な異常な物性が期待される。エッジ状態とバルクの状態の電子状態の理解、新奇電磁輸送現象の理解を行っていく。とくに異物質との接合の問題を考えていきたい。
(5)トポロジカル凝縮系の物理

 トポロジカル絶縁体や、量子ホール系では、バルクはギャップをもちエッジに金属状態が存在することが知られている。この金属状態はトポロジカルに保護されている。バルクの絶縁体でトポロジカル不変量が定義されることが、エッジ状態の存在を保証することも知られている。近年このような絶縁体(半導体)で実現される系に対応した系が超伝導の世界にも存在することが明らかになってきた。例えばカイラル超伝導体のエッジ状態は粒子の生成と消滅の区別ができないマヨラナフェルミオンで記述できることが明らかになっている。マヨラナフェルミオンはトポロジカル量子計算を支える量子ビットとなりえるために今日急速にその関心が高まっている。我々はすでにマヨラナフェルミオンを介したトンネル効果の研究を始めているが、この研究をさらに発展させたいカイラル超伝導体やヘリカル超伝導体といったトポロジカルに非自明な超伝導体のエッジ状態とその物性に与える研究を行いたい。超伝導に限らず、非自明なエッジ状態を持つ系を広く凝縮系に求めて新奇な物理現象を予言していきたい。


これらの研究は、超伝導の物理として重要なだけでなく、凝縮系物理学における新奇な対称性の予言、トポロジカルに非自明な現象の予言につながる。また最近の研究で明らかになったようにアンドレーエフ束縛状態(エッジ状態)の存在は指数定理という素粒子物理学に出てくる定理と関係があり、我々の研究している物理は非常に深遠である。凝縮系物理学の新概念の開拓を目指し量子物理のフロンティアを開拓していきたい。