2. Theory of Josephson effects in anisotropic superconductors,
Physical Review B Vol. 56, No. 2, pp.892-912, 1997,
Y. Tanaka and S. Kashiwaya.
d波のような異方的超伝導体接合のJosephson効果を議論した論文である。1.超伝導体界面で必然的に起こるアンドレーエフ反射の効果、 2.進行方向によってペアポテンシャルの符号が変化する効果、 3.界面に形成されるゼロエネルギー状態[今日では(ミッドギャップ)アンドレーエフ束縛状態、(ミッドギャップ)アンドレーエフ共鳴状態ともよばれている]の効果をとりいれた理論で、Physical Review B (Rapid Communications) Vol. 53 119571996)[引用数 208]の内容を詳しくしたものである。
 この理論をd波超伝導体とd波超伝導体の接合に適応して、2つのd波の結晶軸と法線方向の角度を選ぶことで従来のs波超伝導体では予想されない特異なジョセフソン電流の温度依存性、位相差
φ依存性をもたらすことを予言した。特に界面に形成されるゼロネルギー状態の存在によりジョセフソン電流は温度の低下とともにいったん増加し、また減少しまた増加するという非常に特異な温度依存性が現れることを示した。これは、温度の低下によって0接合(π接合)からπ接合(0接合)に変化することに対応する。(0接合とは接合の自由エネルギーがφ=0で最小になる接合でπ接合はφ=πで最小になる接合である。)この異常な温度及び位相差依存性は2001年にドイツのJenaのグループにより確認された。[Ilichev et al., Physical Review Letters Vol. 86, 5369 (2001)] 最近、イタリアのグループが銅酸化物超伝導体の接合の実験を行って、高い精度で、この予言を確認した。[Testa et al., Physical Review B Vol. 71, 134520 (2005)]。またジョセフソン電流の位相差依存性も従来型のsin(φ)だけでなくsin(2φ)といった高調波の成分が強められ、その結果基底状態で、自発的に縮退した量子2準位系が現れることが示された。これは、外場を印加すること無しに自発的に量子ビット(このような量子ビットは、外部制御パラメータの揺らぎの影響を全く受けないため、現在では、静かな量子ビットと呼ばれている)が形成されることを意味し、銅酸化物超伝導体を用いた量子ビット作成上重要な性質である。さらに、フェルミ面の効果を考慮した格子モデルに基づく計算の結果を、Journal of the Physical Society of Japan, Vol. 72,  2299 2003)に発表し本論文の結果の正当性をより詳細な計算から確かなものにした。[引用数 230]